「順番が違ったんだ。それ以上はないんだ」

これは、プリンスとヒロインが、あの時、出会わなかった物語。

「ええ、産むつもり。あなたの立場はわかってる、セバスティアン。バンダーバーグ関係なく育てるから安心して。あなたの子だもの、産まない選択肢はないのよ」

ヒドゥン・スプリングズのジョシー・ミューラーは、セバスティアン・バンダーバーグの子供を身ごもりました。

出会ったその時から、まるでこれまで何度も恋におちたかのように惹かれあった2人の間に障害があるとすれば、彼は王家の長男・・・王子だったということでした。

彼には、きっと相応しい相手がいるのだろうと、ジョシーは1人で子供を産んで育てる決心をしたのでした。

それでも、セバスティアンは頻繁にジョシーと息子アドルファスのもとを訪れ、お互いの気持ちは深まっていきます。

そんな夏の日、ジョシーはセバスティアンからプールパーティに呼ばれました。

「母に君を紹介しようと思ったけど、他のパーティに呼ばれて出かけてしまったみたいだ」
「無理して認めてもらわなくていいのよ、セバスティアン」
「そう言うな」

「あなたしかいないってわかってたら、アドルファスを連れてきたのに」
「いいだろ? たまには2人きりっていうのも」
「そうね・・・」

そんな風に愛を深めていた2人、アドルファスが小学生にあがった頃、突然、セバスティアンの義父ルノーの申し出により、バンダーバーグ宮殿で同居することになってしまいます。

「明日、迎えをやるよ。いいね」

王家とは関係なく子供を育てたかった2人は、当主カタリナとその夫ルノーの動向を警戒しながらも、親子一緒に暮らせるのは嬉しかったようです。

そんな中、バンダーバーグ家当主カタリナが妊娠します。父親は勿論ルノー。

お披露目パーティが開かれることになり、セバスティアンはそこで、エラ・カーライルと知りあいます。
実は彼女、カタリナが気に入って、セバスティアンの嫁候補として連れてきたのです。

「初めまして、王子。エラ・カーライルと申します」
「やあ、君がエラか。リアムから、とてもいい子だって聞いているよ」
「そんな・・・かいかぶりですよ」
「俺は、リアムの言うことは全面的に信じることにしているんだ」
「それじゃあ、否定し続けるのも彼に失礼ですね。ありがとうございます」
「敬語はいいよ。リアムの友達なら、俺にとっても友人だ」

ジョシーは、会話が弾み、なんだかいい雰囲気の2人に気が気ではありません。

ジョシーが客の壊したトイレを直すために席を立った後、食事を摂るために、談笑しながら部屋へ入ってくる2人。

セバスティアンは、真っ先にジョシーの作ったフルーツパイをとりました。

「あら? 小学生もいるのね?」
「ああ。俺の息子なんだ。バンダーバーグ姓ではないけれど」
「とてもよく似てるわ」
「そうだろう?」

「想像していたより、話しやすいのね、セバスティアン。ふふ、意外」
「それは褒められてると思っていいのかな」
「もちろん。楽しい時間を過ごせたお礼に、今度、うちのレストランに来てね。何かサービスするわ」

会話が弾むセバスティアンとエラを見ながら、意味ありげに微笑むカタリナとルノー。

「・・・ああいう子が、セバスティアンの相手に望ましいってことよね・・・」

キッチンで、パーティ客のためにドリンクを作っていたジョシーはショックです。

確かにセバスティアンの子供を産み、この家に同居はしている。彼は自分を大切にしてくれるけれど、その実、何の保証も約束もない。
そして、彼の立場を考えると、自分の気持ちだけを押し通すこともできません。

多分、この家に必要なのはアドルファスだけで、ジョシーは必要とされていないのです。
そのアドルファスだって、もし別の、もっと条件を満たす子供が現れれば、きっと脇に追いやられるのでしょう。

彼女は、息子を連れて、以前の家に戻ることを決めます。

「セバスティアン」

「どうしたの? ずいぶん情熱的だ」
「・・・」

「3人で暮らすか」
「え」

「妹も生まれたし、俺がここに居続ける必要もないだろう。君とアドルファスと、一緒に暮らそう」
「だってあなたは」
「その先は言わなくていい。なあ。君は俺のこと、王子だから好きなのか?」
「違う。この街に来たばかりで、そんなの知らなかったもの」
「なら、ここにいなくてもいいよな?」

「いいの?」
「俺が何者かなんて知らずに出会って、今があるんだ。それとも、母がよこす恋人候補を次から次へ断る俺を見ていたい?」
「そんなわけないじゃない」
「じゃあ、何も困らない。いずれどうなるにしても、俺は一度、ここを出るのがいいんだ。それが君となら、なおいいな」

そうして、ジョシーとアドルファスは、セバスティアンとともに、元の家に戻りました。

「アドルファス、ごはんできてるわよ」
「はーい」

それは、父がいて母がいて子供がいる、普通の家族の日常。
何度かルノーから電話がかかってきましたが、それ以外は、取り立てて事件のない幸せな日々。

そんなある日、セバスティアンはエラ・カーライルから呼び出されました。

「呼び出してごめんなさい」
「どうしたの?」
「お母さまが、あなたのことをとても心配していたから、どうしているのかしらって思って」
「様子を見てきてくれって頼まれた?」
「・・・正直に言っちゃうと、そう」

「でも本当は、私も、あなたがどうしているか気になったから」
「そうか」
「カタリナからじゃなくて、あなた本人に聞きたくて」
「何を?」

「・・・将来、あなたの隣に私がいる可能性はありますか?」

「・・・もし」

「もしまだあの家にいて王子をやっていたなら、母の選んだ君を受け入れてただろうと思う。ずっとそうやって生きてきたしね」
「・・・」
「でも、俺はジョシーに出会って、思いかけず息子ができて・・・少なくとも今は、王子じゃない自分を楽しんでいるんだ。ただのセバスティアンは、思ったより平凡で素朴な男だったよ」
「・・・そう・・・」

「下の妹もバンダーバーグを拒否すれば、きっと、俺が継ぐことになるんだろう。母の子であることを捨てたわけじゃないからね。その時、ジョシーが横にいてくれれば、きっと今の自分を忘れずにいられる」

「・・・先に出会っていたかったわ・・・私がそこにいたかった・・・」

「順番が違ったんだ。それ以上はないんだ」

「ありがとう、ちゃんと振ってくれて」
「母には俺から言うよ。君はとても素敵なのだから、もっといい人に出会えるさ」
「今はあまり信じられない言葉ね」
「大丈夫だよ。君はそういう女性だ」

セバスティアンとエラの間にそんなことがあったなど知らず、数日後、ジョシーは顔を輝かせて、仕事帰りのセバスティアンを待っていました。

「セバスティアン、私、お腹に赤ちゃんがいるんですって」
「ほんとに?」
「ええ、まだ男か女かはわからないけど」

「結婚しよう」
「いきなり!?」

「今、そう思ったから。いいだろ? 細かいことは後だ。今すぐ返事が聞きたい。ジョシー・ミューラー、俺の妻になってくれますか?」

「はい」

「パラダイス島にもね、王族があって王子がいるんですって。しかも、王子の1人は、あなたと同じ警察官」
「へえ、それはなかなか興味深い」

「父さん、マリンスポーツやったことある? ヨットとか、スキューバとか」
「いや、ちゃんとはないな」
「じゃあ、どっちが先に上手くなるか競争しようよ。母さんはダメだよ、運動音痴なんだから」
「はいはい、ベアトリクスと船でのんびりしてるわよ」

「ハウスボートとクルーザーって何が違うんだろう。母さん知ってる?」
「向こうで実際に見たらわかるんじゃない?」
「ジョシー、ベアトリクスは?」
「ちゃんと起きてるわよ。もうずいぶん大きいもの。この旅行の間に小学生になるわね。学校どうしよう」
「なんとでもなるさ」

「じゃあ、行くか」

古いプレイで写真が足りなかったりすると、話の流れに沿った再プレイをします。
ただ、人間関係などを完璧に同じにするのは無理なので、ちょっとずつ、原本プレイとズレが出て、一種のパラレルワールドみたいな感じになるのが面白い。

なるべく本編と同じ写真を使って、シチュエーションの違いが見せられたら面白いなあと思ったのが、このおまけです。

エラと出会わなかったセバスは、ジョシー一筋。踊りもせずにジョシーラブ。
「お前誰だ」と突っ込んだこと数回。

同居に至ってからも、何度かカタリナやルノーに「家を出ていくよう頼む」みたいなコマンドを出しては打消し、これは一緒に住みたくないんだな、と、ジョシーと一緒にバンダーバーグ宮殿を出ることになりました。

結局、セバスとジョシーの結婚式に、バンダーバーグ家の人間は誰も出席してくれませんでした。
それでもセバスティアンは、自分の決断を後悔はしていないし、バンダーバーグであることをやめることもないでしょう。

そういう強さを得たのだと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。