金で伴侶の人生を買うのは、お家芸ですかな。

「失礼ながら、あなたは社長に金で買われた伴侶だということを理解した方がいい」

「社長はあなたが思う以上にしたたかですよ。

孫ほど年の差のある女性を伴侶に選んだ結果、ゴシップ記事や、やっかみに起因するネガティブな意見も勿論あります。
ですが、大富豪と結婚できたあなたへの憧れを、わが社の車を所持することで疑似的に叶えた気になる女性も多いでしょう。

伴侶・恋人である女性の好みは、購買層の男性をも動かします。
事実、わが社の業績は上がっています。

でなければ、あなたのような、どこの誰かも知れない娘を妻にするわけがない。
夢のような愛だ恋だを信じない方が、のちのち傷つかずにすむかと。

これは、私のささやかながらの親切心です。

では、失礼いたします、奥様」

「どうした、元気がないな」
「・・・大丈夫」
「ふむ、何か言われたか」
「・・・私、あなたにふさわしい人間になるから。金で買われた妻って言われたりしないように」
「ははは、『金で買われた』のは、あながち間違いではあるまい」
「・・・!」
「お前の生活は、私と暮らすようになってずいぶんと変わっただろう? 住処にも困っていたお前が、広い屋敷に住み、上等な布団で寝ていられるのはそういうことだ。そこから目を背けるのは愚かだな」
「そうだけど・・・」

「ケイティ、ならば、自らを育てることだ。私には金で買われる価値があると反論してやればいい。現に、お前のそのキャリアは、お前の努力の見返りではないのかな?」
「でも」
「私はな、自分の目を信じているんだ。そして、お前に対する自らの心も信じている。心は他人には見えん。見えないものはどうとでも言える」
「・・・ヘンリー、私、ちゃんと愛されているわよね?」
「・・・私はこう見えてロマンチストでね。理屈ではない激情や運命も信じているんだよ」

ケイティ。誰かにふさわしい誰かなんぞ、存在しないよ。
お前は私の妻で、この人生の終わりに愛していると言える。
ただそれだけだ。そういうことだ。

ずっと一緒にいてやりたいが、そうもいかん。

私がいなくなった後、お前と一緒に生きてくれる人が現れることを願うよ。
できれば、この騒がしいローリングハイツではないどこかで。

そして、その誰かを愛してほしい。それはとても幸福なことだ。
私がそうであるように。

なあ、ケイティ。

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