セバスティアンとの曖昧な関係を続けるジョシーは、優しいリアムからの告白に揺れる。
そんな折、ルノー・バンダーバーグから、息子アドルファスと一緒にバンダバーグ宮殿で生活するように言われるのでした。
相関図
なかば強引にバンダーバーグ宮殿に移住させられたジョシーとアドルファス。
自分抜きで決められた決定に、アドルファスは不服そうですね。
まあそりゃそうだ。
何の準備もなしに、今日の明日で来いと言われても・・・って感じですよね。
そんなバタバタだったので、ジョシーは昨夜、リアムに電話するので精一杯。
「リアム、ごめんなさい、私、バンダバーグで暮らすことになって」
『え? どういうこと?』
「あっという間にお膳立てされて、断れる状況じゃなくなっちゃったの・・・それに、もしかしたら、もしかしたらよ? アドルファスの将来を考えたら、その方がいいかもって・・・」
『・・・セバスティアンを選んだんだね』
「違うの。セバスティアンはエラのものよ、でも・・・」
『いいんだ。君の人生だ。君の選択に文句はないよ』
「リアム」
『幸せに・・・なんて言えないな。悲しいことに、僕はまだ君が好きだから。だから、うん、切るね』
アドルファスのため、とか言ってますが、結局はセバスティアンに拒絶されなかったことが嬉しかったんだよね、ジョシー。
ちゃんと恋に決着がついてないから、「今」、肯定してくれる人に流されてしまうあたり、実は彼女は自分に自信がないんじゃないかと思います。
状況に困惑していたっていうのも、もちろん、事実でしょうけれど。
いずれにせよ、セバスティアンがエラと別れていない以上、いずれ婚約→結婚となるわけで、そうなった時には、やっぱり、彼女の居場所はどこにもなくなっちゃうと思うんですけどね・・・。
ま、外野がそれを心配しても仕方ないです。とにかく、頑張って生きろ、ジョシー。
新生活、さてどうなるかと思っていたら、なんと、セバスティアンが結構いい父親をしています。
さりげなく隣にいてあげたり、読み聞かせ後に一緒に寝たり。
もの珍しいのか、父性が沸いたか、守っているのか。
アドルファスも、最初こそ戸惑いがあったものの、子供故の順応力の高さで、徐々にこの家にも慣れていっているようです。
幸いなことに、ルノーもカタリナも、彼には優しい。
ヒステリックな家柄ママみたいな立ち位置のカタリナさんですが、実はジョシーと特質がよく似ていて、かなり相性はいいのです。
「誓約嫌い」でも仲良くしてもらったし、私には悪い印象はないんですよね。
むしろ、「この家の緩衝材」という説明のついたルノーの方が、「短気」がついているせいか、トラブルを起こしている印象です。
特にセバスティアンにはよく口論をしかけてる。「いい加減、跡取りとしての自覚をもて」とか言ってるのかな。
ジョシーを家に呼んだのも彼でしたし、後夫として、何か焦るところがあるんでしょうか。
いずれにせよ、心配していたような衝突もなく、すんなりと世帯に受け入れられ、生活しているジョシー母子です。
最初、「引っ越してくるよう言われ」た時、長居する気はありませんでした。ちょっと面白い展開になったなー程度で。
いざ新しい生活を始めてみると、なんかフツーに三代同居の家、みたいになっていて、このままでもいいんじゃね? と、チラっと思ったり。
でも、やっぱりジョシーは気を遣っています。掃除から料理からを率先して引き受けてる。
これじゃあ、お手伝いさんだよなあ・・・。
また、同居を機に、セバスティアンの態度がだいぶ変わりました。
ジョシーの家に通っていた時には、彼から積極的にロマンチックアクションを起こしていたんですが、同居してからは、かなり素っ気ない感じです。
こういうのもアレですが、ある程度色っぽい反応はするんだけど、ウフフまでに至らないというか何というか。
ジョシーはウフフ願望を出していても、セバスティアンは出さないというか。
かといって、エラとデートするとか恋人との時間を欲しているかというと、そういういった願望もあまり出しません。
うーむ、王子の考えてることがわからん・・・っていうか、本当に色恋が面倒なんだな、きっと。
そんな中、パーティアニマル・セバスティアンが「パーティを開く」という願望を出したので、実施することにしました。
当然のことながらエラが呼ばれます。そしてリアムも。
王子目線からしたら、「彼女」と「いい友達」なんだから、招待するのは当然です。マイシム・ジョシーに肩入れしている私としては、複雑だったけども。
「やあ、いらっしゃい、エラ」
「お招きありがとうございます」
「そのドレス、やっぱり似合うな」
「あなたが見立ててくれたんだもの、必死で自分を似合わせてるの。ふふ」
「食事はまだだろう? 軽く何か食べないかい?」
「嬉しい。実を言うとね、この素敵なBGMに、私のお腹の音も交じるんじゃないかしらってビクビクしてたのよ」
「はは、それも聞いてみたいけどね。さあ、お手をどうぞ、お嬢様」
「光栄ですわ、プリンス」
談笑しながら食事を楽しむ2人。
そのフルーツパイ、ジョシーが作ったやつ。
「あら? 子供がいるわ。珍しいのね」
「ああ。バンダーバーグの子なんだ」
「そう。可愛い。少しあなたに似ているのは血筋かしらね」
「何か飲む? 取ってくるよ」
「ええ、ありがとう」
「バンダーバーグの子・・・彼の名前はアドルファスよ・・・」
台所でパーティ客のためにドリンクを作っていたジョシーはショックです。
でもまあねえ、結婚するかもしれない彼女に「俺の子」とは言えないよねえ・・・。
(別世帯のシムが、他のシムの血縁関係をどこまで把握しているか不明ですが、ここでは、基本的に知らない、という設定でいきます)
理屈ではわかる。ある程度の覚悟もしていたけど、実際に自分の耳で聞いちゃうとズンとくるよね・・・。
そんな彼女の傷を広げるかのように、ルノーのスピーチ。
「皆さま、今日の佳き日に喜ばしい発表がございます。誠に目出たいことに、バンダーバーグに家族が加わることになりました。この子に祝福を。そして、心からの感謝を我が妻へ。愛しているよ、カタリナ」
バンダーバーグ家当主、カタリナが妊娠しました。父親は勿論ルノー。
王家3人目、セバスティアンの父親違いの兄弟(姉妹)となりますね。
ますますアドルファスの立場がなくなるね・・・。
そういえば、リアムが一向に来ないな。どうしたんだ。
・・・と思ったら、外にいた。
中には入らず、ドアの前で暫く逡巡した後、くるりと背を向けて帰ろうとしています。
ジョシーがそれに気づき、ルノーの発表に沸くパーティ会場を抜け、彼を追いかけて行きました。
「待って」
「・・・あ・・・」
「・・・この間はごめんなさい。電話のこと」
「いいよ、とはまだ言えないけど、顔が見られて嬉しいよ」
「入らないの?」
「うん。ここまで来たけど、やっぱりちょっと無理そうだ。帰るよ」
「リアム」
「・・・」
「私、間違っていたのね」
「どうしたの?」
「バンダーバーグに新しい家族ができるんだって、今、大騒ぎ。でも、アドルファスは名前も呼んでもらえない。バンダーバーグの子って、カタログみたいに」
「ジョシー・・・」
「・・・子供に妙な名札を付けられないようにしようって、産む前はちゃんと考えてた筈なのに、私は自分のことばかりで」
「・・・」
「私、間違っていたわね」
「・・・何か力になれる?」
「ありがとう・・・でも、あなたに甘えるのも・・・違うわね・・・」
パーティは大成功に終わり、一夜明けた日曜日。
「出かけるの?」
「うん、ちょっとね」
こういう時はエラとのデートだってことを、ジョシーは知っています。
「セバスティアン」
「・・・行ってらっしゃい」
「どうしたの? ずいぶんと情熱的だ」
「・・・うん、ちょっとね」
「・・・」
「さよなら」
ここにいる限り、自分たちは他人から名前を与えられるのを待っているだけの存在でしかない。
こんなにも色々なことを考え、泣き、笑いしているのに。
名もなき存在なら、自分で名前をつければいい。
人に決められるのではなく、自分が自分を決めるのです。
そうして、ミューラー母子は、ひっそりと元の家に戻りました。
寒い日でした。
今後のことは、ひとまず今日は考えない。
まずは、自分に戻れたことを喜びましょう。
夕食を終えて、ジョシーは家を出ました。
行かなくてはいけないところがあります。
会わなきゃいけない人がいます。
「ただいま」